遺言無効の訴え – 偽造・認知症等
遺言書が民法に定められている方式に違反している場合、遺言書が偽造されている場合、遺言書作成時の遺言者に意思能力がない場合等は、遺言は無効となります。また、遺言書が詐欺や強迫により作成されたものである場合は、遺言を取り消すことが出来ます。
そして、詐欺や強迫、偽造等を行った者が法定相続人である場合は欠格事由に該当し、当該法定相続人の相続権は法律上当然剥奪されることになります。また、偽造を行った者は有印私文書偽造罪に問われる可能性もあります。
遺言の効力を争うには、相手方の住所地を管轄する地方裁判所に対して、遺言無効確認訴訟を提起して行うことになります。相手方としては、当該遺言の効力に関し利害関係を有する相続人・受遺者等を被告とすることになりますが、固有必要的共同訴訟にはならないため相続人全員を被告とする必要はありません。なお、遺言執行者がいる場合は遺言執行者を被告として訴訟を提起することになります。
遺言無効確認訴訟が提起されるのは、ほとんどの場合において自筆証書遺言によるものとなります。公正証書遺言は、2人の証人の立会いのもと公証人により遺言書が作成されるため、方式違反や偽造が行われることがないためです。
公正証書遺言で無効となる可能性があるのは、遺言者に意思能力がなかった場合等になりますが、公正証書遺言は公証人による本人確認及び意思確認が行われたうえで作成された遺言書であるため、これを無効にするためには、遺言書作成時の遺言者の状態に関し、医学的資料をもって認知症等の病状を根拠づけて立証する必要があり複雑な紛争となります。しかし、これを立証することが出来れば公正証書遺言であっても遺言無効の判決を受けることが出来ます。
また、他人の添え手による補助を受けて作成された自筆証書遺言の場合、これが有効と判断されるためには、以下の要件をすべて満たす必要があり、この有効性の立証は、有効であると主張する側において行う必要があると判例上示されています。
① 遺言者が遺言書作成時に自書能力を有すること
② 他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、または遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであること
③ 添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡のうえで判定できること
なお、遺言無効確認訴訟の結果、当該遺言が無効だと判断された場合は、遺産分割協議により各相続人が取得する財産を定める必要があります。
ちなみに、遺言が無効と判断されずに有効であると判断された場合において、当該遺言の内容が自身の遺留分を侵害することになる場合、遺留分減殺請求は自身の遺留分が侵害されていることを知ってから1年以内に行わなければ時効により消滅することになるため、事前に内容証明郵便により遺留分減殺請求の意思表示を行っておく必要があります。
▽次回は、自筆証書遺言における押印に関することを記載したいと思います。