自筆証書遺言における押印
自筆証書遺言は、民法第968条第1項により、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに押印することを要すると定められています。そのため、押印がない自筆証書遺言は遺言の方式違反として無効となります。
ただし、この押印を行う箇所は、必ずしも署名の名下であることを要せず、遺言書自体に押印がない場合においても、以下の判例のように封入した封筒の封じ目に押印があれば有効であると認められる場合もあります。
平成6年6月24日最高裁判例によれば、民法第968条第1項が自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性および真意を確保するとともに、重要な文書については署名したうえでその名下に押印することが我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保するところにあると解されています。
そこで、上記趣旨が損なわれない限り、押印の位置は必ずしも署名の名下であることを要しないものと解するのが相当であるとしたうえで、当該遺言書は書簡形式により封筒に封入されているものであり、一般の手紙であれば封筒の封じ目に押印まではしないが、在中物が重要文書等であるときには封筒の封じ目に押印することがある。
そして、この場合の押印の趣旨も、在中の重要文書等について差出人の同一性、真意性を明らかにするほか、文書等の在中物の確定を目的とし、かつ、それを明示することにある。
以上のことから、当該遺言書は書簡形式をとったために遺言書の署名の名下に押印はないが、それが遺言書という重要文書であったため封筒の封じ目の左右に押印したものと考えられるとして、当該遺言書は自筆証書遺言の性質を有するものであるということが出来る。
さらに、封筒の封じ目の押印は、これにより直接的には当該遺言書を封筒中に確定させる意義を有するが、同時に当該遺言書が完結したことをも明らかにする意義を有しているものと解することが出来る。
そのため、この封筒の封じ目への押印は、自筆証書遺言の方式として要求される押印の上記趣旨を損なうものでなく、当該遺言書は有効であると判示しました。
なお、遺言の解釈に当たっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈することが遺言者の意思に沿うものであると、平成5年1月19日最高裁判例により判示されています。
▽次回は、遺留分減殺請求に関することを記載したいと思います。