清算型遺贈 – 売却代金の遺贈と不動産登記
相続財産を売却したうえで、売却代金を相続人または第三者に遺贈する旨の遺言を清算型遺贈といいます。清算型遺贈における相続財産の売却及び受遺者に対する売却代金の交付は、遺言執行者が行うことになります。
遺言の内容としては、「相続財産すべてを現金に換価したうえで、葬儀費用、遺言執行費用、売却手数料、不動産登記費用、不動産譲渡所得税等の費用及び負債を控除した残額を○○に対し遺贈する。」といった包括遺贈によるものや「不動産を売却し、売却代金から売却手数料、不動産登記費用、不動産譲渡所得税を控除した残額を△△に対し遺贈する。」といった特定遺贈によるものがあります。
そして、遺言執行者は、遺言の内容に従い相続財産を売却したうえで、売却代金から控除すべき費用を差し引いた金額を受遺者に渡すことにより遺言執行者としての職務が完了することになります。
なお、不動産を売却し、売却代金により債務を弁済するとのみ記載されており、残額の分配に関してはなんら記載のされていない遺言は、遺言により当該不動産を処分すべき行為には該当しないとして無効とした判例があります。そのため、遺言執行者が遺言により相続財産の売却を行うためには、売却代金の取得者が指定されている必要があります。
清算型遺贈を執行するにあたっての不動産の売却は、遺言執行者が遺言執行者名義で契約及び登記手続きを行っていくことになります。
不動産登記手続きに関しては、相続人がいない場合といる場合とで異なることになります。
■相続人がいない場合
まず、相続人がいない場合は、①相続人不存在による相続財産法人名義への登記名義人氏名変更を行ったうえで、②権利者を買主、義務者を相続財産法人として売却による所有権移転登記を行うことになります。
なお、本来、相続財産法人名義への変更登記は、相続財産管理人を選任した後に相続財産管理人により行われることになりますが、この場合においては相続財産管理人を選任することなく変更登記を行うことが出来ます。
■相続人がいる場合
次に、相続人がいる場合は、①相続人名義への法定相続分どおりの相続による所有権移転登記を行ったうえで、②権利者を買主、義務者を相続人全員として売却による所有権移転登記を行うことになります。
ただし、当該所有権移転登記の申請は、①に関しては遺言執行者単独または相続人が行うことが出来、②に関しては、買主と遺言執行者の共同申請により行うことになります。
本来、相続による所有権移転登記は、遺言による不動産・預貯金・株式の名義変更手続きに記載しているように、相続人が単独で行うことが出来るため、遺言執行者は当該登記手続きに関与することは出来ません。
しかし、清算型遺贈による場合は、相続人が当該不動産を取得するのではなく、遺言の目的を達成する過程において、相続登記を行う必要があるだけのため、以下の先例により遺言執行者が単独で行えることになります。
先例:弁護士法第23条の2に基づく照会(登記研究417号) (昭和52年2月4日付 法務省民3第773号民事局第3課長回答) ドイツ人である被相続人の日本にある相続不動産を、遺言執行者が売却処分し、その売却金を受遺者に分配しようとする場合の不動産に関する登記手続について |
◇照会内容 今回、遺言執行者はその職務の履行として、その管理する不動産を売却してその売却金を受遺者に分配することとしたが、売却にともなう所有権移転登記につき東京法務局港出張所に問い合わせたところ、担当官は、遺言執行者が移転登記申請の当事者となることは認められないとのことなので種々資料を提供して説明したが応じない。右不動産の売却及び移転登記は諸般の事情から急を要するので、法務省に対して照会されたくここに請求する次第である。 |
◇回答 所問の場合は、遺言執行者の単独申請により被相続人名義から相続人名義に相続による所有権移転登記を経由したうえで、遺言執行者と買主との共同申請により相続人名義から買主名義に移転登記をすべきものと考えます。 なお、右の各登記の申請書には、遺言執行者であること及び遺言執行者が所問の処分をする権限を有することを証する書面を添付する必要があるので申し添えます。 |
清算型遺贈は、遺言執行者による売却ではありますが、相続人がいる場合、上記のとおり、形式上は一旦相続人に所有権が移転し、相続人名義で買主に対し売却することになります。
つまり、売却代金も形式上、一旦相続人に帰属してから受遺者に対して交付される形となるため、相続人に対して、譲渡所得税が課されることになります。そして、譲渡所得税は、財産を売却した翌年に確定申告を行い、税額を納めることになります。
そのため、譲渡所得税の申告を行っていない段階において、受遺者に対し売却代金を交付する形となるので、交付時点において譲渡所得税額をしっかり計算してこれを控除したうえで、受遺者に対して売却代金を交付する必要があります。そして、遺言執行者は納税時期まで当該金額を管理しておくことになります。
▽次回は、遺言による寄付 – 売却代金の遺贈に関することを記載したいと思います。