遺言による不動産・預貯金・株式の名義変更手続き
遺言書のある遺産相続の場合、不動産・預貯金・株式などの遺産相続手続きを行うにあたり、手続き方法が遺言書のない場合と異なることになります。
遺言書がない場合の不動産の名義変更は、相続人間の話し合いにより誰が当該不動産を取得するのかを定めた遺産分割協議書を作成したうえで、相続人全員が署名・押印(実印)をし、印鑑証明書を添付して法務局に登記申請を行うことになります。
ただし、相続人が1名である場合や法定相続分どおりに不動産の名義変更を行う場合は、遺産分割協議書を作成する必要はなく、実印による押印及び印鑑証明書も必要ありません。ちなみに、法定相続分どおりに不動産の名義変更を行う場合は、相続人のうちの1名のみでも手続きを行うことは出来ます。
これに対し、遺言書がある場合の不動産の名義変更の場合、当該不動産を遺言により取得した者が相続人であるか否かにより手続き方法が異なることになります。
まず、当該不動産を相続人が相続により取得した場合は、遺言執行者の有無に関わらず、当該相続人のみで他の相続人の協力を必要とすることなく名義変更を行うことが出来ます。
これは、相続発生と同時に当該不動産は当該相続人の所有になるという効果が発生するからです。そして、法務局における所有権移転登記手続きにおいては、当該相続人が単独で手続きを行うことが出来るため、遺言執行者には当該不動産の名義変更を行う権利及び義務はありません。そのため、遺言執行者は当該不動産の名義変更手続きに関与することが出来ないことになります。
次に、当該不動産を相続人または第三者が遺贈により取得した場合において、遺言執行者がいない場合は、相続人全員が義務者となり、受遺者が権利者となって共同で不動産の名義変更を行うことになります。遺言執行者がいる場合は、遺言執行者が義務者となり、受遺者が権利者となって共同で不動産の名義変更を行うことになります。
不動産の名義変更における義務者は、実印による押印及び印鑑証明書の添付をする必要があります。そのため、遺言執行者がいない場合において相続人全員の協力を得ることが出来ない場合は、家庭裁判所において遺言執行者を選任する必要があります。
遺言書がない場合の銀行や証券会社での手続きは、原則として各金融機関所定の用紙に相続人全員の署名・押印(実印)をして手続きを行うことになります。なお、遺産分割協議書を添付した場合は、その金融機関における預貯金や株式を取得する者のみが金融機関所定の用紙に署名・押印(実印)して手続きを行うことになります。
遺言書がある場合において遺言執行者がいない場合は、当該財産を取得する者が相続人であるか否かに関わらず、原則として相続人全員の協力が必要になり、遺言執行者がいる場合は遺言執行者のみで手続きを行うことになります。
なお、当センターの経験上、銀行との交渉の仕方により、遺言執行者がいない場合において遺言執行者を選任しなくても、非協力的な相続人の署名・押印なしに手続きを行えたことが何度かあります。
▽次回は、包括遺贈と特定遺贈 – 受遺者の資格、税金に関することを記載したいと思います。